「うん、行こ。今日の授業は……」
ついでに言うなら、生徒なら教科書やノートなどが入ったリュックとかバッグとか持っていそうなものだが、微睡は何も持たず、手ぶらだった。しかし、真夕紀はそれに気付かなかった。
「おい、真夕紀! 土曜日空いてるか? いや、空けとけよ! 山に遊びに行くぞ!」
校門で、いじめっ子の一人がすれ違いざまにそんなことを言ってきた。超訳すれば、「土曜日は山で散々いじめてやるぞ!」ということになる。
「こらぁ! あんたら、真夕紀にそんなこと言うんじゃないよ! どうせまた虫とか捕まえさせる気でしょ!」
彼らの後ろから、明穂がいじめっ子たちを追いかけて、彼らと団子状態になりながら校庭に転がり込んでいく。遅れて、真夕紀も後を追って駆けだしていった。
「やれやれ……人間ってせわしないね」
その様を呆れたように見送る微睡だった。
「やつらにとっちゃ、生(なま)の時間が短いからな。一分一秒でも無駄にできないんだろ」
微睡の頭上から、クチダケの声がした。クチダケは、人の生のことを「なま」と呼ぶ。
「そうだな。……しかし、クチダケ、この姿の時は黙ってろよ。喋る帽子なんて人間界にはないんだからさ」
学帽のつばが上下した。頷いたようである。
それを確認して、微睡も学校へと入っていった。
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