「これは……何だろう?」
緑の茅葺きをあしらった巣箱のようなもの……
けれど、巣箱にしては、口が細長くて、鳥なんかが入れる大きさじゃない。
この口は、何か手紙を入れるもののような――
「もしかして……妖怪ポスト?」
妖怪ポストとは、これに願い事を書いた手紙を入れれば、人ならざる幽霊族の少年が願いを叶えてくれると言われる。ただし、誰の願いでも叶えてくれるという訳ではなく、心からそれを叶えたいと願う純粋な人の前にのみ、ポストは自ら姿を現すという。
……けれども、本物だろうか?
いじめっ子たちのいたずらじゃないかしら。でも、手触りはしっかりしていて、
いたずらでこんなものを作れるとは思えない。それに、今朝の登校中は確かになかった。半日足らずで設置出来るはずはない。
真夕紀はリュックからノートを取り出して、ページを一枚破り取った。本物かどうか分からないけれど、他人に聞かれても構わない願い事ならいいだろう。
何て書こうか……「いじめっ子たちがいなくなってほしい」
――ううん、駄目。これじゃあ、別の意味に取られかねない。幽霊族の少年ではなく、闇夜に浮かぶ光の名を冠する少年がやってきかねない。
真夕紀はしばらく考えた後、願い事を書いて、小さく畳み、ポストに突っ込んだ。瞬間、口の奥に広がる闇が手紙を吸い込むように飲み込んだが、彼女はそれに気づかず、リュックを背負い直して、その場を走り去った。 |