「ところが、そういうわけにもいかんのですよー」
そのとき、バンと鬼っ娘の部屋のドアが開かれ、小柄な少女が、ブーツを履いたまま上がってきた。
「梨梨(りり)か……そういうわけにもいかない、ってどういうことだ?」
兎々(うさうさ)梨梨だ。れっきとした人間の少女だが、ウブメ事件で知り合って以来、勝手に付きまとって、人間界の実情に疎い鬼っ娘のサポーターを自称している。大抵、勝手に来て勝手に喋って勝手に帰るだけなのであるが。ちなみに、彼女はこれでも、大病院の院長の長女である。
「あ〜やっぱり知らないんすね? このままだと、ここに住むのがやばいことになるってこと。最近の不況のせいで、この安いボロアパートの家賃も値上がりしてるんす」
「つまり、このままだと人間界にもいられない、と? しかし、こんな依頼聞いた所で、報酬が出るとも思えないが」
「そんなことないっすよーその娘のパパとやらが学者ですからね、うまくいけば、金になるはずっすよ――たぶん」
「……たぶん?」
「それに……いや、今はいいか。とにかく、四の五のいってられる余裕はないだろう? 他にも依頼が来る当てなんてないことは、お前も知ってるだろ」
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